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基礎法学 (H18-2)


外国人に関する次のア~オの記述のうち、正しいものはいくつあるか。


ア 父母がともに外国人である場合において、子が日本で生まれたときは、その子は、日本国民となる。

イ 外国人が日本国外において犯罪を行った場合には、日本の刑法が適用されることはない。

ウ 地方公共団体は、条例により、その区域内に住所のある外国人に対して、当該地方公共団体の長および議会の議員の選挙権を付与することができる。

エ 外国人は、法令または条約により禁止される場合を除いて、私法上の権利を亨有する。

オ ともに外国人である者が日本において婚姻する場合の婚姻の成立および効力については、日本の法律による。


1 一つ

2 二つ

3 三つ

4 四つ



解答 1 


この問題は外国人に関する法律全般を聞いています。

例えば、アは国籍法 イは刑法、ウは憲法判例、エは民法 オは法例14条について問われています。

ウとエはともかく、それ以外は行政書士の法律科目としてはほとんど勉強しません。

ですから、このような問題が個数問題で出題されると捨て問にされる方が多いかと思います。

しかし、このような知識がない問題に対して対処方法があれば、当然正解率が上がります。

そうすると、対処方法のない方とは自ずと合格する確率も変ってくるのです。

また、未知の問題に対して焦らなくなり、他の問題をやるときにマイナスの影響がでにくくなります。

ですから、このような問題に対する対処方法の一つを解説したいと思います。

対処方法といっても何か奇策があるわけではなく、何度も申し上げていますが、とにかく自分の知っている知識だけで解けないかということを意識することなのです。

この問題では、大雑把にいうと、外国人にわが国の法律などが適用されるのかということですよね。

そうすると、すぐ思い出していただきたいのですが、憲法で学んだ大原則である国民主権が手がかりになるのです。

国民主権からすると、国会で作った法律などは原則的に外国人には適用されないはずです。

なお、この場合に外国人とは人種ではなく、日本国籍を有しない外国人です。

例えば、元サッカー選手のラモスや元大関の小錦などは日本国籍を有する外国人ですから、日本人と同等に扱われます。

まずは、この外国人には適用されないという原則論から問題文を読んで、形式的にあてはめてみてください。

次にこの原則論を貫くと何か不都合が生じるかを考えてみてください。

もし不都合が生じるようなら、例外的に外国人にも適用されると考えるのです。

まとめると、原則→不都合→例外という思考になります。

民法と類似した単純な思考ですよね。

具体的にこの対処法で解説していきましょう。


<ア>

上記の国民主権の原則からすると、アは×になります。

これで何か不都合が生じるかを考えてみますと、父母が日本国籍を有しない外国人であるなら、その生まれた子供はその父母が現に有する外国の国籍に入るのが通常でしょう。

逆から言うと、例えば、日本人夫婦が海外旅行したとしましょう。

奥さんが妊婦であって海外旅行先で早産してしまった場合、その子供が旅行先の外国の国民となったらびっくりしますよね。

海外旅行して生んでしまったばかりに、ただ生んだ場所が外国というだけで、子供が外国人になってしまったら、日本に戻ったときにその子供は改めて日本国籍を取得しなければ日本人になれません。

これは常識的に考えてもおかしいですよね。

ですから、日本国籍を有しない外国人である父母から日本で生まれた子供が日本国民とならなくても、父母の有する外国の国籍に入れば問題ないので、なんら不都合は無いのです。

そうすると、原則どおりでいいわけです。

よって、アは誤りです。


<イ>

上記の国民主権の原則からすると、イは○になります。

これで何か不都合が生じるかを考えてみますと、例えば、フィリピンで日本のお札を大量に偽造して、現地で格安で売っていたとしましょう。

日本で売っているわけではないので直接日本には影響がないようにも思えますが、その大量のお札を現地の銀行に振り込まれ、日本で引き出せるようにされたら、日本中に偽造札が出回って日本社会に混乱をもたらしますね。

こうした国外での偽造は日本人がやっても外国人がやっても同じことが言えますから、やはり犯罪として処罰されるべきです。

ですから、こうした国外での犯罪を処罰できないのは、日本の国益にとって不都合ですから、犯罪をした外国人に対して刑法が例外的に適用されるべきなのです。よって、イは誤りです。


<ウ>

上記の国民主権の原則からすると、ウは×になります。

これで何か不都合が生じるかを考えてみますと、例えば、外国人であってもその地域に長く住んでいる定住外国人なら、その地域のことをよくわかっているし、住民の意思が反映した条例でならば、選挙権を与えてもよいとも思えます。

しかし、ある特定の地域でしか適用されない条例で全国の地方公共団体が外国人の選挙権を認めると、例えば仮に日本を統治したいという外国があったとすると、その外国が大量の外国人を選挙前に地方に送り込むことで地方の政治を牛耳ることができるようになります。

そうすると、地方の政治は外国人に委ねられ、ある意味において第2次大戦後のアメリカの統治下と同じような状態になってしまいます。

これでは国民主権は全うできませんね。

もし定住外国人が選挙権を得たいならば、外国国籍から日本に帰化して日本国籍を取得し、日本国民になることも可能です。

そうすると、国民主権の原則から、条例で日本国籍を有しない外国人で長などの選挙権を付与しなくても不都合はないのです。

ちなみに、判例は国政についての選挙権は国民主権と真っ向からぶつかるので禁止しており、地方の政治については、地方自治という住民意思の反映が重視されるので、法律でなら定住外国人にかぎって地方の選挙権を付与することも許容できるといっています。

いずれにしても、この問題は単に区域内に住所のある外国人に対して選挙権を付与できるとしかかかれていませんから、国民主権の原則に反しますね。

よって、ウは誤りです。

なお、この問題に関しては憲法でも出題される可能性があると思いますから理解しておいたほうが無難でしょう。


<オ>

上記の国民主権の原則からすると、オは×になります。

これで何か不都合が生じるかを考えてみますと、婚姻の場合、アと同様に、外国人が属する外国の法律が適用されればとくに不都合はないのです。

仮に、外国人が海外挙式で日本に来て婚姻したので区役所などに婚姻届を出したいといってそれを許しても、婚姻後に帰化するわけでもなく、日本にも住まないならば、その婚姻届はただの結婚記念にすぎません。

このような外国人の届け出に行政がいちいち対応していたら、国民に対する円滑・迅速な行政サービスの実現が図れなくなります。

よって、オは誤りです。

ここまで肢が切れると、この問題は正しいものはいくつあるかですから、解答の選択肢にはゼロ解答がありませんので少なくとも一つは正しいわけです。

ですから、エは検討しなくても正しいと答えがでてしまいます。

実はこの問題は、個数問題のフリした一肢選択問題だったのです。

つまり、個数問題でありながら、全て解答を出さなくても正解がでる問題なのです。

おそらく、出題者の意図としては、他分野にわたる問題のため、上記のように肢が切れれば正解できるようにしたのでしょう。

もし誤っているのはいくつあるかという問題ならば、エの正誤も判断しなければなりませんね。

ただ、エは民法の基本的な問題なので、すぐに解答できたのではないでしょうか。

念のために上記対処法にならって解説しておきます。


<エ>

上記の国民主権の原則からすると、エは×になります。

これで何か不都合が生じるかを考えてみますと、例えば日本に旅行に来た外国人は日本で物を買ったり、レストランで食事をしたりすることができなくなってしまいます。

物を買うのは売買契約ですし、食事は請負契約ですから、外国人に私法上の権利がないならば、こうした契約を結ぶことができなくなってしまいますから不都合です。

また、外国人に私法上の権利を付与したところで国民主権が揺るがされることはほとんどないです。

ですから、例外的に外国人であっても私法上の権利は有するのです。

よってエは正しいです。

なお、問題文にあるように民法上は外国人であっても私法上の権利は有することが原則となっています(民法3条2項)。

あくまでも上記にあげた原則→不都合→例外という未知の問題への対処方法からすると、国民主権を原則としてこの問題を考えた場合、外国人であっても私法上の権利は有するということが例外になるということです。

以上のように、原則→不都合→例外という未知の問題への対処方法からすると、詳細な法律や条文を知らなくても国民主権という大原則と常識的な考え方をすれば、正解を導くことができます。

いわば個別の条文などを一本の木に例えると、木を見てわからないときは、その木からなる森、つまり法律全体に関わる大原則を見て、それを手がかりに問題を解いてみるという癖をつけておくことはとても重要なのです。

未知の問題への対処方法の一つとして覚えておいても損はないでしょう。

この問題を間違えたからといって、国籍法や刑法まで勉強しなくちゃいけないとは絶対に思わないでくださいね。

このような問題は出題範囲を超えていますから一般知識問題と同様に知っている法律知識と常識で解けるはずなのです。




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