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行政法 総論 (H25-9)


行政の自己拘束に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、誤っているものはどれか。


1 事業者に対する行政財産の目的外使用許可が所定の使用期間の途中で撤回された場合に、撤回を行った行政主体に損失補償の責任が生じるのは、許可に際して損失補償をする旨の取り決めを行ったときに限られる。

2 行政庁がその裁量に任された事項について、裁量権行使の準則(裁量基準)を定めることがあっても、このような準則は、行政庁の処分の妥当性を確保するためのものであるから、処分が当該準則に違背して行われたとしても、違背したという理由だけでは違法とはならない。

3 行政主体が一方的かつ統一的な取扱いの下に国民の重要な権利の行使を違法に妨げた結果、行政主体に対する債権を消滅時効にかからせた場合、行政主体の側が消滅時効の主張をすることは許されない。

4 行政主体が公務員の採用内定の取消しを行った場合、内定通知の相手方がその通知を信頼し、その職員として採用されることを期待して他の就職の機会を放棄するなどの準備を行っていたときは、当該行政主体はその者に対して損害賠償の責任を負うことがある。

5 異議申立てに対する決定等の一定の争訟手続を経て確定した行政庁の法的な決定については、特別の規定がない限り、関係当事者がこれを争うことができなくなることはもとより、行政庁自身もこれを変更することができない。


解答 1  


本問は、一見すると、細かい判例知識問題のように思えますが、実は憲法で勉強した基本的な知識を思い出していただければそれだけで正解できる問題です(肢1参照)。行政法は応用憲法ですから、よくわからない判例問題が出題されたら、一度憲法に戻ってみると意外と道が開けます。また、行政法は、民法の考え方を応用する部分もありますので、行政法の枠組みだけで考えるのではなく、民法の考え方も思い出すと良いでしょう(肢3と4参照)。判例は有料講座の方に譲ります。


肢1 誤

損失補償の問題ですから、憲法29条を思い出してください。


第29条

1 財産権は、これを侵してはならない。

2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

3  私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。


(1項)

1項では、個人の財産権が保障されます。

(2項)

財産権が保障されるとしても、公共の福祉の見地から法律によって制限されます。

(3項) 

3項は、1項2項に反するような制約がなされた場合をあらかじめ想定して、国家の損失補償を義務づけたものです。

1項の個人の財産権の保障=財産権の不可侵を徹底するために、個人の財産権に損失を出してしまった場合は、その損失分を金銭で補填しようという趣旨です。

 ここで、次の論点を思い出してください。

「ある法律で、特定人に対して特別の犠牲を強いるため損失補償が必要な場合にもかかわらず、損失補償規定が制定されていなかった場合、その法律は憲法29条3項に反するものとして違憲となるか。」

まず、公共の福祉による制限を超えた特別の犠牲であれば、損失補償が必要となります。逆に言うと、公共の福祉の範囲内の犠牲であれば、それは受忍しなければならないのです。

そして、法令に損失補償に関する規定がないからといって、あらゆる場合につき損失補償を一切否定する趣旨とまでは解されず、別途直接憲法29条3項に基づき損失請求をする余地が全くないわけではないので、法令に損失補償に関する規定がない場合でも直ちに違憲無効とすべきではないのです。

つまり、特別の犠牲を払った者に損失補償が認められる場合、法令に補償規定がなくても直接憲法29条3項に基づき損失請求をすることができるので、違憲にはあたらないということです。

損失補償は、財産権の不可侵を全うするために特定人の損失を金銭で補填するものですから、法律の根拠規定がなくても、裁判所で市場価格が算定できるので特に問題がないからです。

ですから、本問においても、撤回を行った行政主体に損失補償の責任が生じるのは、許可に際して損失補償をする旨の取り決めを行ったときに限られるのではなく、特別の犠牲があればそのような取り決めがなくても損失補償の責任が生じるのです。

  本問に直接関連する判例(最判昭和49年2月5日)は、有料講座に譲ります。

本判例の「使用権自体に内在する制約」とは、憲法29条2項の公共の福祉による制約であって、この制約の範囲内の犠牲であるならば、使用権者は、原則として、地方公共団体に対しもはや当該使用権を保有する実質的理由を失う、つまり損失補償は認められないということです。

そして損失補償が認められる例外が具体的に記載されています。いわば特別の犠牲となる具体例です。

一つは、使用権者が使用許可を受けるに当たりその対価の支払をしているが当該行政財産の使用収益により右対価を償却するに足りないと認められる期間内に当該行政財産に右の必要を生じた場合です。

簡単にいうと、行政財産の使用対価をすでに払っているが、その払った分に見合った収益をまだ十分に得ていないのに行政財産を利用できなくなった場合です。

もう一つは、使用許可に際し別段の定めがされている等により、行政財産についての行政財産本来の用途または目的上の必要にかかわらず使用権者がなお当該使用権を保有する実質的理由を有すると認めるに足りる特別の事情が存する場合です。

例えば、地方公共団体と個人との特約によって行政財産を利用できる場合です。

市販の問題集などでは、このような判例の細かな部分を取り出して、「許可に際して損失補償をする旨の取り決めを行ったときに限られる」わけではないとする解説がほとんどだと思いますが、その細かい判例の知識がなければ正解できない問題ではないのです。

憲法に戻って考えてみると、損失補償が必要となる場合であれば、当事者の取り決めや法律がなくても憲法を直接の根拠として認められる可能性があるのです。

むしろ、この憲法29条の基本的な論点を理解していることの方が重要なのです。問題の解き方として参考にしてみてください。

肢2 正

行政の自由裁量については、原則として行政の判断が尊重され、裁判所の審査は及びません。

しかし、行政の自由裁量によって裁量権の著しい逸脱や濫用があった場合は違法であり、裁判所の審査に服することになります。

したがって、本問のように処分が当該準則に違背して行われたとしても、裁量権の著しい逸脱や濫用がなければ、違背したという理由だけでは違法とはならないのです。

肢3 正

 本問も判例(最判平成19年2月6日)からの出題ですが、常識的にも正しいとわかるでしょう。

行政主体が一方的かつ統一的な取扱いの下に国民の重要な権利の行使を違法に妨げた結果、行政主体に対する債権を消滅時効にかからせた場合、これはもはや国民の権利侵害に他なりません。このような行政の行為は、民法でも勉強した信義則(信義誠実の原則)に反して違法です。

ですから、行政主体の側が消滅時効の主張をすることは許されないのです。

肢4 正

損害賠償とあるので民法上の損害賠償を思い出してみましょう。

まずは不法行為に基づく損害賠償(709条)です。

行政が公務員採用の内定を出したにも拘らず、故意・過失によって内定を取り消し、それによって、被採用者が損害を被ったのであれば損害賠償責任を負うのは当然です。これは国家賠償責任も同様の考え方で認められます。

また、信義則上の義務違反に基づく損害賠償も考えられます。

行政が公務員採用の内定を出したということは、雇用契約を締結する準備段階に入ったということですから、契約締結に向けて行政と被採用者との間では特別な信頼関係があります。その信頼関係を行政側の帰責性によって一方的に壊すことになれば、信義則上の義務違反に基づく損害賠償責任を負うでしょう。

いずれの根拠においても行政側が正当な理由なく公務員採用の内定を取り消した場合、被採用者が他の就職の機会を放棄するなどの準備を行っていたときなどの損害があれば、当該行政主体はその者に対して損害賠償の責任を負うことがあるのです。

肢5 正

これも判例(最判昭和42年9月26日)がありますが、判例を知らなくても拘束力を理解していれば正しいとわかるでしょう。

拘束力とは、有効に成立した行政行為の法律効果に、相手方及び行政庁自身が拘束される効力をいいます。

例えば、行政が飲食店の営業許可をした場合、営業許可をした行政もそれを法律の定める手続によらなければ安易に取消すことはできないですし、許可を受けた国民もそれを信頼して営業をすることができるということです。





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