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行政法 総論 (H24-8)


行政法における信頼保護に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものはどれか。


1  地方公共団体が、将来にわたって継続すべき一定内容の施策を決定した後に、社会情勢の変動等が生じたとしても、決定された施策に応じた特定の者の信頼を保護すべき特段の事情がある場合には、当該地方公共団体は、信義衡平の原則により一度なされた当該決定を変更できない。

2  公務員として採用された者が有罪判決を受け、その時点で失職していたはずのところ、有罪判決の事実を秘匿して相当長期にわたり勤務し給与を受けていた場合には、そのような長期にわたり事実上勤務してきたことを理由に、信義誠実の原則に基づき、新たな任用関係ないし雇用関係が形成される。

3  課税処分において信義則の法理の適用により当該課税処分が違法なものとして取り消されるのは、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお、当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に限られる。

4  課税庁が課税上の取扱いを変更した場合において、それを通達の発出などにより納税者に周知する措置をとらなかったとしても、そのような事情は、過少申告加算税が課されない場合の要件として国税通則法に規定されている「正当な理由があると認められる」場合についての判断において考慮の対象とならない。

5  従来課税の対象となっていなかった一定の物品について、課税の根拠となる法律所定の課税品目に当たるとする通達の発出により新たに課税の対象とすることは、仮に通達の内容が根拠法律の解釈として正しいものであったとしても、租税法律主義及び信義誠実の原則に照らし、違法である。



解答 3  


法律による行政と信義則について判例からの出題です。過去問にもほとんど出題実績がないので難しく感じたかもしれません。しかし、肢1、3、5は、テキストおよび演習問題で詳細に解説してありますので、合格ファームで勉強していた方には是非正解して欲しかった問題です。


1 誤

(最判昭和56年1月27日)

『右施策が変更されることにより、前記の勧告等に動機づけられて前記のような活動に入つた者がその信頼に反して所期の活動を妨げられ、社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、地方公共団体において右損害を補償するなどの代償的措置を講ずることなく施策を変更することは、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び、地方公共団体の不法行為責任を生ぜしめるものといわなければならない。』

このように、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとはいえない程度の施策の変更であれば、変更することも可能なのです。

すなわち、まず、社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被らない程度であれば変更でき、また社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る程度であっても、①損害を補償するなどの代償的措置を講ずるか、または②やむをえない客観的事情による場合には、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとはいえない程度の施策の変更であるため、変更することも可能なのです。

2 誤

(最判平成19年12月13日)

『国が当該公務員は国家公務員法に基づき失職した旨を主張しても、当該公務員が失職事由の発生を隠して事実上勤務を継続し給与の支給を受け続けていたにすぎないという事情の下では、信義則に反し権利の濫用に当たるということはできないとしている。』

したがって、新たな任用関係ないし雇用関係が形成されるわけではないのです。

3 正

(最判昭和62年10月30日)

『租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、右課税処分を取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するというような特別の事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。』

この判例のように、納税者の信頼を保護しなければ正義に反するというような特別の事情があれば、例外的に法の一般原理である信義則の法理の適用により、右課税処分を取り消すことができる場合もあるとしました。

4 誤

(最判平成18年10月24日、最判平成19年7月6日)

『過少申告加算税は,過少申告による納税義務違反の事実があれば,原則としてその違反者に対して課されるものであり,これによって,当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに,過少申告による納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を図り,もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば,過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として国税通則法65条4項が定めた「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。』

『課税庁が従来の取扱いを変更しようとする場合には,法令の改正によることが望ましく,仮に法令の改正によらないとしても,通達を発するなどして変更後の取扱いを納税者に周知させ,これが定着するよう必要な措置を講ずべきものである。ところが,前記事実関係等によれば,課税庁は,上記のとおり課税上の取扱いを変更したにもかかわらず,その変更をした時点では通達によりこれを明示することなく,平成14年6月の所得税基本通達の改正によって初めて変更後の取扱いを通達に明記したというのである。そうすると,…納税者の主観的な事情に基づく単なる法律解釈の誤りにすぎないものということはできない。

以上のような事情の下においては,本件申告において,上告人が本件権利行使益を一時所得として申告し,本件権利行使益が給与所得に当たるものとしては税額の計算の基礎とされていなかったことについて,真に上告人の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお上告人に過少申告加算税を賦課することは不当又は酷になるというのが相当であるから,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるものというべきである。』

この判例によると、納税者に周知する措置をとらないことは、国税通則法の「正当な理由があると認められる」場合の判断考慮の対象となります。

5 誤

通達とは、行政機関内部において、上級機関から下級機関に対する指揮監督関係に基づいた一般的な定めであって、民主的手続きを経た法律ではありません。

そのため、通達で新たに課税処分をすること自体は、租税法律主義(84条)に反します。

しかし、実は、非課税として運用してきたこと自体が間違っていただけであり、すでにある法律を正しく解釈すれば、課税物件の対象となるものであったならば、これは法律を根拠にした課税なので、租税法律主義に反しないと考えられているのです。

単純にいうと、法律では課税対象となっているものを、行政がその法律の解釈を誤っていたために、非課税物件として運用していたにすぎないということです。

ですから、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものであれば、課税処分は法の根拠に基づく処分といえるのです。最判昭和33年3月28日ですので押さえておいてください。




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