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民法 債権 (H22-33) 


AのBに対する不当利得返還請求等に関する次のア~オの記述のうち、判例に照らし、誤っているものはいくつあるか。


ア Aは、Bに対する未払い賃料はないことを知りつつ、Bから賃料不払いを理由とした賃貸建物明渡請求訴訟を提起された場合における防禦方法として支払いをなすものであることを特に表示したうえで、Bに弁済を行った。この場合に、Aは、Bに対し、不当利得として給付した弁済額の返還を請求することができる。

イ Aは、賭博に負けたことによる債務の弁済として、Bに高価な骨董品を引き渡したが、その後、A・B間でBがこの骨董品をAに返還する旨の契約をした。この場合に、Aは、Bに対し、この骨董品の返還を請求することができる。

ウ Cは、BからB所有の家屋を賃借した際に、CがBに対して権利金を支払わない代わりに、Cが当該家屋の修繕義務を負うこととする旨を合意したため、後日、当該家屋の修繕工事が必要となった際、CはAに対してこれを依頼し、Aが同工事を完了したが、CはAに修繕代金を支払う前に無資力となってしまった。この場合に、Aは、Bに対し、不当利得として修繕代金相当額の返還を請求することはできない。

エ Aは、Bとの愛人関係を維持するために、自己の有する未登記建物をBに贈与し、これを引き渡した。この場合に、Aは、Bに対し、不当利得としてこの建物の返還を請求することができる。

オ Bは、Cから強迫を受け、同人の言うままに、Aと金銭消費貸借契約を締結し、Aに指示してBとは何らの法律上または事実上の関係のないDに貸付金を交付させたところ、Bが強迫を理由にAとの当該金銭消費貸借契約を取り消した。この場合に、Aは、Bに対し、不当利得として貸付金相当額の返還を請求することができる。


1 一つ

2 二つ

3 三つ

4 四つ

5 五つ


解答 2


ア 正

債務が存在しないのに弁済してしまうことを非債弁済といいます。

この場合、弁済された側は法律上の原因がなく給付という利益を受け、弁済した側はそれによって損失が生じていますので、不当利得返還請求できるはずです。

しかし、弁済者が、自己に債務が存在しないことを知りつつ任意で債務を弁済したのなら、不当利得返還請求を認めて保護する必要はありません。

そのため、このような非債弁済の場合、不当利得返還請求することができないのです。

もっとも、判例によると、弁済者が任意で弁済したことが必要であり、弁済者が強制執行の回避などやむを得ない事情により弁済してしまった場合には適用されないとしています。

 本問について、Bから賃料不払いを理由とした賃貸建物明渡請求訴訟を提起された場合における防禦方法として支払いをなすものであることを特に表示したうえで、Bに弁済を行っているのでやむを得ない事情により弁済してしまった場合にあてはまります。

したがって、Aは、Bに対し、不当利得として給付した弁済額の返還を請求することができるのです。


イ 正

賭博に負けたことによる債務の弁済として、骨董品を引き渡すことは、自ら社会的に非難されるべき行為によってなされた給付であるため、不当利得の要件を満たしていても返還請求ができないとすることが公平なのです。

これを不法原因給付といい、裁判所は不法な請求には助力しないというクリーンハンズ「きれいな手」の法理の表れです。

90条と表裏一体となって、反社会的な行為をした者に対して一切の法的救済を与えない法理を定めたものなのです。

しかし、判例によると、不法原因給付の場合、任意に返還しない受益者に対して、給付者が裁判所を利用して不当利得返還請求をすることができないだけであり、当事者で別途新たに返還する旨の契約は有効とされているのです。

したがって、本肢は返還する契約をしているので、Aは、Bに対し、この骨董品の返還を請求することができるのです。


ウ 正

いわゆる転用物訴権の問題です。

まず、CA間で請負契約がなされているので、AはCに対して請負代金請求をすることができるはずです。しかし、Cが無資力つまり強制執行しても弁済能力がない状態になっています。

この場合に、このCの無資力の危険を誰が負担するのかということがこの問題の出発点となります。

AがCに契約上の請求を出来ない場合に、修繕工事によって建物の価値が上がったという利益を得ている貸主Bに不当利得返還請求できないだろうかということです。

判例(最判平成7年9月19日)によると、第三者が利益を受けたというには、契約全体から見て、当該第三者が対価関係なしに利益を受けたときに限られるとしています。

そうすると、本問では、CがBに対して権利金を支払わない代わりに、Cが当該家屋の修繕義務を負うこととする旨を合意しているので、修繕工事によって建物の価値が上がったという利益は、権利金との対価関係があるものです。

それにも関わらず、AがBに対して不当利得返還請求できるとすると、Bは、権利金はもらえない、修繕費は負担するという損失だけを負うことになりますから、Bには利益はないのです。

これではBのみがCの無資力の危険を負うことになりそれは公平ではないのです。

したがって、原則どおり、Aは契約者であるCに対して請負代金の請求することができるに過ぎず、Cが支払えない場合は、契約当事者であるAがCの無資力の危険を負担することになるのです。

なお、もしCがBに対して権利金を支払っていて、Cが当該家屋の修繕義務を負っていた場合は、Bは権利金も得ている上、修繕によって建物の価値が増加しているという利益も得ているので、この場合は、判例の言う対価関係なしに利益を受けた場合にあたるのでAはBに対して不当利得返還請求をすることができるのです。


エ 誤

愛人関係を維持するために、物を贈与する行為は、公序良俗違反にあたり(民法第90条)、不法原因給付としてその給付の返還を請求することができなくなるところ(民法第708条)、不法原因給付における「給付」とは履行の余地を残さない終局的なものでなければならないとされています。

判例では、例えば、愛人関係の存続を目的にした登記済不動産の贈与においては、引渡しを済ませたというだけでは足りず、登記名義までをも受贈者に移転しなければならないとされています。

また、動産や未登記不動産なら引渡して初めて「給付」となります。

これは「給付」となる段階を遅らせることで、給付の中途で後戻りを認めることにより不法な行為をできるだけ抑止することができるからです。

 本問では、未登記建物をBに贈与し、これを引き渡しているので終局的な給付といえます。

したがって、Aは、Bに対し、不当利得としてこの建物の返還を請求することができないのです。


オ 誤

本問について、判例では、BとDには、何らの法律上または事実上の関係がないためAからDへ貸付金が交付されてもBは利益を得ていないので不当利得返還請求の要件の一つである受益の要件を満たさず、不当利得返還請求はできないとされています。

したがって、Aは、Bに対し、不当利得として貸付金相当額の返還を請求することはできないのです。

なお、もしBとDには、何らの法律上または事実上の関係があった場合、例えば、BがDから借金をしていたような場合はAからDへ貸付金が交付されることでBは債務を免れるという利益を得るので不当利得返還請求の要件の一つである受益の要件を満たし、不当利得返還請求はできることになります。




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