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民法 物権 (H22-30)


A銀行はBに3000万円を融資し、その貸金債権を担保するために、B所有の山林(樹木の生育する山の土地。本件樹木については立木法による登記等の対抗要件を具備していない)に抵当権の設定を受け、その旨の登記を備えたところ、Bは通常の利用の範囲を超えて山林の伐採を行った。この場合に、以下のア~オの記述のうち、次の【考え方】に適合するものをすべて挙げた場合に、妥当なものの組合せはどれか。なお、対抗要件や即時取得については判例の見解に立つことを前提とする。


【考え方】分離物が第三者に売却されても、抵当不動産と場所的一体性を保っている限り、抵当権の公示の衣に包まれているので、抵当権を第三者に対抗できるが、搬出されてしまうと、抵当権の効力自体は分離物に及ぶが、第三者に対する対抗力は喪失する。


ア 抵当山林上に伐採木材がある段階で木材がBから第三者に売却された場合には、A銀行は第三者への木材の引渡しよりも先に抵当権の登記を備えているので、第三者の搬出行為の禁止を求めることができる。

イ 抵当山林上に伐採木材がある段階で木材がBから第三者に売却され、占有改定による引渡しがなされたとしても、第三者のために即時取得は成立しない。

ウ Bと取引関係にない第三者によって伐採木材が抵当山林から不当に別の場所に搬出された場合に、A銀行は第三者に対して元の場所へ戻すように請求できる。

エ Bによって伐採木材が抵当山林から別の場所に搬出された後に、第三者がBから木材を買い引渡しを受けた場合において、当該木材が抵当山林から搬出されたものであることを第三者が知っているときは、当該第三者は木材の取得をA銀行に主張できない。

オ 第三者がA銀行に対する個人的な嫌がらせ目的で、Bをして抵当山林から伐採木材を別の場所に搬出させた後に、Bから木材を買い引渡しを受けた場合において、A銀行は、適切な維持管理をBに期待できないなどの特別の事情のない限り、第三者に対して自己への引渡しを求めることができない。


1 ア・イ・ウ・エ

2 ア・イ・ウ・オ

3 ア・イ・エ

4 ア・ウ・エ

5 イ・ウ・オ



解答 2


抵当権の効力のおよぶ範囲(370条)については勉強した通りですが、山林の伐採によって、抵当不動産から分離した付加一体物に対して抵当権の効力が及ぶか、また及ぶとして抵当権者と分離物の第三取得者の優劣についての考え方については、この問題文の考え方が通説となっています。

抵当権者と第三者との対抗関係についての問題ですので、177条の「第三者」という対抗関係の応用問題となっています。

今後もこのような出題はあると思いますが、現場で考えてあてはめるタイプの問題ですので、知識を身につけようとせずに現場で考えればある程度の正答率まで上げられる問題であると割り切って押さえるようにしましょう。

問題文の考え方の分岐点は、「分離物の搬出後は第三者に対する対抗力は喪失する。」という点です。

ですから、分離物の搬出後かどうかが一つのメルクマールとなります。

後は、問題文の「対抗要件や即時取得については判例の見解に立つことを前提とする。」の部分をヒントに正解を導くことができるかどうかというところでしょう。


ア 妥当である。

本肢では、「抵当山林上に伐採木材がある段階」の話ですから、まだ、分離物の搬出前の話です。

ですから、抵当権の効力が及び、また抵当権を第三者に対抗できることになります。

したがって、Aは、物権的請求権として、第三者の搬出行為の禁止を求めることができるのです。


イ 妥当である。

本肢も、「抵当山林上に伐採木材がある段階」の話ですから、まだ、分離物の搬出前の話です。

ですから、抵当権の効力が及び、また抵当権を第三者に対抗できることになります。

また、判例によると占有改定による取得の即時取得の成立は否定されています。

問題文から、即時取得については判例の見解に立つことを前提とする以上、妥当となります。


ウ 妥当である。

本肢は「伐採木材が抵当山林から別の場所に搬出」されているため、本問の考え方を形式的にあてはめると、「分離物の搬出後は第三者に対する対抗力は喪失する。」とも思われます。

しかし、対抗関係にあるためには、二重譲渡のところでも勉強したように、両当事者ともに有効に権利を取得していることが前提となっています。

そのため、本肢のように、取引関係がない第三者が不当に別の場所に搬出している場合、その第三者は、当該木材について無権利者であり、民法第177条にいう登記の欠けつを主張する正当な利益を有する「第三者」にはあたらないのです。

そうすると、依然として抵当権の効力が及び、また抵当権を当該第三者に対抗できることになります。

 問題文から、対抗要件については判例の見解に立つことを前提とする以上、妥当となります。


エ 妥当でない。

本肢は、「Bによって伐採木材が抵当山林から別の場所に搬出された後」の話です。

そして、第三者は肢ウの場合と異なり、有効な取引で木材を取得しています。

また、対抗関係に立つ場合は対抗要件の有無だけが問題となり、第三者の善意・悪意は問われません。

 ですから、「分離物の搬出後は第三者に対する対抗力は喪失する。」ということになります。

したがって、当該第三者は木材の取得をA銀行に主張できるのです。


オ 妥当する。

本肢は「Bをして抵当山林から伐採木材を別の場所に搬出させた後」の話です。

しかし、第三者は、「個人的な嫌がらせ目的」でBから木材を買い引渡しを受けているため、当該第三者は、背信的悪意者にあたります。

ですから、肢ウと同様に民法第177条にいう登記の欠けつを主張する正当な利益を有する「第三者」にはあたらないのです。

そうすると、依然として抵当権の効力が及び、また抵当権を当該第三者に対抗できるようにも思えます。

しかし、本肢はさらにもう一つの論点を組み合わせているので難しくなっています。

つまり、抵当権者は、抵当権に基づいて自己に引渡し請求できるのかという論点が含まれているのです。

債権者代位権のところで解説しましたが、抵当権者は、抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を有するので、右請求権を保全する必要があるときは、民法423条の法意に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができると解するという判例(最高裁平成11年11月24日)がありました。

この判例の傍論で抵当権に基づく妨害排除請求も認めており、後の判例(最判平成17年3月10日)においては、以下のように判示しています。

『抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても、その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、上記状態の排除を求めることができるものというべきである。

なぜなら、抵当不動産の所有者は、抵当不動産を使用又は収益するに当たり、抵当不動産を適切に維持管理することが予定されており、抵当権の実行としての競売手続を妨害するような占有権原を設定することは許されないからである。

 また、抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるものというべきである。』

 この判例によると、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めるには、適切な維持管理が期待できないなどの特別の事情が必要ともしているため、本問について、「A銀行は、適切な維持管理をBに期待できないなどの特別の事情のない限り、第三者に対して自己への引渡しを求めることができない。」という部分は正しいのです。

 この判例まで押さえていれば悩まず正解できたかもしれませんが、この判例については少し難しいところですので、今のところは結論だけ押さえておきましょう。

 いずれにしても、肢オの判例を仮に知らなかった場合でも、ア~エまでの正誤の判断は付くはずですので正解自体は導くことはできたでしょう。




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