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商法・会社法 (H20-39)


甲株式会社(以下、甲会社という)の資金調達に関する次の文章の空欄[ア]~[キ]日に当てはまる語句の組合せとして、正しいものはどれか。なお、以下の文章中の発言・指摘・提案の内容は、正しいものとする。


 東京証券取引所に上場する甲会社は、遺伝子研究のために必要な資金調達の方法を検討している。甲会社取締役会において、財務担当の業務執行取締役は、資金調達の方法として株式の発行、[ア]の発行、銀行借入れの方法が考えられるが、銀行借入れの方法は、交渉の結果、金利の負担が大きく、新規の事業を圧迫することになるので、今回の検討から外したいと述べた。次に、株式の発行の場合は、甲会社の経営や既存株主に対する影響を避けるために、[イ]とすることが望ましいのであるが、会社法は[ウ]について[イ]の発行限度を定めているため、十分な量の資金を調達できないことが見込まれると指摘した。社外取締役から、発行のコストを省くという観点では、[エ]を処分する方法が考えられるという意見が出された。これに対して、財務担当の業務執行取締役は、株式の発行価額が、原則として資本金に計上されるのに対して、[エ]の場合は、その価額はその他[オ]に計上されるという違いがあると説明した。こうした審議の中で、甲会社代表取締役は、[ア]の発行であれば、経営に対する関与が生じないこと、また[ア]を[カ]付とし、[キ]額を[カ]の行使価額に充当させるものとして発行すれば、[キ]に応じるための資金を甲会社が準備する必要はなく、現段階では、有利な資金調達ができるだろうと提案した。


1 ア:社債 イ:議決権のない株式 ウ:公開全社 エ:金庫株式 オ:資本準備金 カ:新株予約権 キ:払戻し

2 ア:債券 イ:議決権のない株式 ウ:上場会社 エ:金庫株式 オ:資本剰余金 カ:取得請求権 キ:払戻し

3 ア:社債 イ:議決権のない株式 ウ:公開会社 エ:自己株式 オ:資本剰余金 カ:新株予約権 キ:償還

4 ア:債券 イ:配当請求権のない株式 ウ:上場会社 エ:募集株式 オ:資本準備金 カ:買取請求権 キ:払戻し

5 ア:社債 イ:配当請求権のない株式 ウ:公開会社 エ:自己株式 オ:利益準備金 カ:取得請求権 キ:償還




解答 3


ア:社債 イ:議決権のない株式 ウ:公開会社 エ:自己株式 オ:資本剰余金 カ:新株予約権 キ:償還


(解説)

この問題は資金調達を理解する上ではとても良い問題です。一定の段落で区切ってみていきましょう。

 「東京証券取引所に上場する甲会社は、遺伝子研究のために必要な資金調達の方法を検討している。甲会社取締役会において、財務担当の業務執行取締役は、資金調達の方法として株式の発行、[ア:社債]の発行、銀行借入れの方法が考えられるが、銀行借入れの方法は、交渉の結果、金利の負担が大きく、新規の事業を圧迫することになるので、今回の検討から外したいと述べた。」

 このアの部分は、最初に解説したように資金調達の方法が3つあるということを知っていれば、ア=社債だとすぐにわかると思います。

問題文にあるとおり、銀行から借り入れするよりも、募集株式や社債を発行するほうが迅速で多額の資金調達が見込めるのです。

「次に、株式の発行の場合は、甲会社の経営や既存株主に対する影響を避けるために、[イ:議決権のない株式]とすることが望ましいのであるが、会社法は[ウ:公開会社]について[イ:議決権のない株式]の発行限度を定めているため、十分な量の資金を調達できないことが見込まれると指摘した。社外取締役から、発行のコストを省くという観点では、[エ:自己株式]を処分する方法が考えられるという意見が出された。これに対して、財務担当の業務執行取締役は、株式の発行価額が、原則として資本金に計上されるのに対して、[エ:自己株式]の場合は、その価額はその他[オ:資本剰余金]に計上されるという違いがあると説明した。」

 このイ~オの部分は株式発行で資金調達した場合の長所と短所を指摘しています。

「既存株主に対する影響を避けるため」というヒントからもわかるとおり、議決権のない株式を発行して資金調達できるのであれば、会社にとっても既存株主にとっても都合がよいのです。

ですから、イ=議決権のない株式となるのです。

しかし、公開会社については、議決権のない株式の発行限度を定めています。

つまり、「種類株式発行会社が公開会社である場合において、株主総会において議決権制限株式の数が発行済株式の総数の二分の一を超えるに至ったときは、株式会社は、直ちに、議決権制限株式の数を発行済株式の総数の二分の一以下にするための必要な措置をとらなければならない。(115条)」と規定されているのです。

公開会社のように株主が自由に入れ替われる体勢をとりながら、新しい株主には一切議決権を行使させないとすると、少数株主が多数株主を支配することになり、資本多数決による会社の支配の公正の確保ができなくなってしまうからです。

例えば、当初発行された1000株を1人の株主が有していた場合に、その後募集株式で100万株を発行し、全て議決権制限株式とすることができるとすると、たったの1000株で会社の支配が可能となり、会社の支配の公正が確保できなくなってしまうのです。

これに対して、非公開会社では、元々既存株主で会社を支配しようと譲渡制限をしているので、このような制限はないのです。

よって、ウ=公開会社となります。

「発行のコストを省くという観点では」というヒントから既に会社が保有している自己株式を処分する方法が考えられるのです。

通常株式を発行するとそれは原則として資本金に計上されるのに対して、自己株式を処分した場合は、その他資本剰余金に計上されます。

自己株式は、以前に発行した株式を会社が市場から買い取っている株式なので、自己株式になった時点で単なる財産的価値のある株式となっています。

ですから、自己株式を処分して、その対価として得たお金は利益としてその他資本剰余金に計上されるのです。

よって、エ=自己株式、オ=資本剰余金となります。

その他資本剰余金についてはまだ勉強していないところですが、ア~エまでは選択肢から入れられるでしょうし、これらが入れられれば後はわからなくても答えがでるのでこの問題は落とせない問題といえるでしょう。残りの肢も見ていきましょう。

「こうした審議の中で、甲会社代表取締役は、[ア:社債]の発行であれば、経営に対する関与が生じないこと、また[ア:社債]を[カ:新株予約権]付とし、[キ:償還]額を[カ:新株予約権]の行使価額に充当させるものとして発行すれば、[キ:償還]に応じるための資金を甲会社が準備する必要はなく、現段階では、有利な資金調達ができるだろうと提案した。」

ここからは社債についての話です。社債であれば、会社債権者であって株主になるわけではないので経営に対する関与は生じません。

ただし、社債は、株式と異なり出資ではなく、借金(債務)なので償還期限には返済しなければなりません。

そのため、返済額を会社に準備しておく必要があります。そういう意味では会社の負担となります。

このような社債の短所を補うために、新株予約権付社債にしようという提案をしています。

社債と募集株式発行を単純に組み合わせた場合、社債発行後、償還期限に一度償還をします。

その後募集株式を発行する際に改めて出資してもらうというのが原則です。

新株予約権付社債にすると、問題文にあるように、償還額を株式の払込金に充てるので、会社は返済する必要はないし、また社債権者も改めて払込する必要もなく株主になれるので、両方にとって手続き的にメリットがあるのです。

新株予約権付社債のうち、転換社債型新株予約権付社債というものがこの方法をとることができます。

このように新株予約権付社債を発行すると、単に株式を発行したときのデメリットを補うことができ、また社債の償還についてのデメリットも補えるようになって一石二鳥の制度ということになるのです。

新株予約権付社債という株式と社債両者良いとこ取りとなる資金調達の方法があるというのが本問の出題の意図であり、資金調達を理解する上で勉強の素材となる問題です。

よって、カ=新株予約権、キ=償還となります。





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