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行政法 総論 (H27-8)


裁判による行政上の義務履行確保について、最高裁判所の判決に照らし、妥当な記述はどれか。


1 国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は、法令の適用により終局的に解決することができないから、法律上の争訟に該当しない。

2 国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は、このような訴訟を提起することを認める特別の規定が法律にあれば、適法となりうる。

3 国又は地方公共団体が財産権の主体として国民に対して義務履行を求める訴訟は、終局的には、公益を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものではないから、法律上の争訟には該当しない。

4 国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は、行政上の義務履行確保の一般法である行政代執行法による代執行が認められる場合に限り、不適法である。

5 国又は地方公共団体が財産権の主体として国民に対して義務履行を求める訴訟は、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるわけではないが、現行法上、こうした訴訟を認める特別の規定があるため、提起することが許されている。



解答 2  


本問は宝塚市パチンコ条例事件(最判平成14年7月9日)からの出題ですが、実はこの判例を知らなくても憲法で勉強した法律上の争訟を理解していれば容易に正解できます。


テキストP48~


憲法(憲法テキスト第10回P247~)で勉強した法律上の争訟の話を思い出してみましょう。

法律上の争訟とは、当事者間における具体的な権利・義務または法律関係の存否に関する紛争であって(=事件性の要件)、法律を適用することによって、終局的に解決することができるものをいいます(=終局性の要件)。

このような法律上の争訟を対象とする訴訟を主観訴訟ともいいます。

 これに対して、当事者間における具体的な権利・義務または法律関係の存否に関する紛争の解決ではなく客観的な法秩序の適正維持を目的とする訴訟のことを客観訴訟といいます。

客観訴訟は、当事者間における具体的な権利・義務または法律関係の存否に関する紛争ではなく、事件性の要件を欠くので本来的には司法権の範囲には属しません。

しかし、客観訴訟については、裁判所に紛争の解決を担わせるのが最も公平かつ適切であるという役割分担の問題として、立法政策上客観訴訟を裁判所の担当にしたのです。

裁判所法3条1項にも「その他法律において特に定める権限を有する」と書かれており、この「特に定める権限」が客観訴訟に対する裁判所の審査権限ということなのです。

このように、客観訴訟は、司法権の範囲ではないですが、政策的に裁判所の役割にしたということを押さえておきましょう。

以上の憲法での理解を前提に、本問を検討していきます。そうすると、肢1・肢2のグループと肢3~5までのグループとに分けられます。

つまり、肢1・肢2のグループは「国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として」訴訟を提起する場合であり、肢3~5までのグループは「国又は地方公共団体が財産権の主体として」訴訟を提起する場合です。

そうすると、まず、肢3~5までのグループは、「国又は地方公共団体が財産権の主体として」訴訟を提起する場合なので、国又は地方公共団体が私人と同じ立場で訴訟をする場合なので、通常の民事訴訟を念頭に入れればよいのです。ですから、上記で説明した、法律上の争訟、つまり、当事者間における具体的な権利・義務または法律関係の存否に関する紛争であって、法律を適用することによって、終局的に解決することができる主観訴訟となります。

ですから、肢3~5までのグループは、法律上の争訟であるにもかかわらず、それを原則的に否定しているので、全て誤りとなります。

次に肢1・肢2のグループは「国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として」訴訟を提起する場合なので、国又は地方公共団体が私人と異なる公の立場で訴訟をする場合なので、通常の民事訴訟ではないということになります。ですから、法律上の争訟性を満たさず、主観訴訟ではないのです。では客観訴訟として司法権の範囲となるでしょうか。そのためには、上記の裁判所法3条で規定されている通り、個別の法律で規定されていればよいのです。

本問では、ここまでしか問われていないので、憲法で勉強した理解で正解できてしまうのです。

したがって、肢2について、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は、客観訴訟として、裁判所法3条で規定されているとおり、このような訴訟を提起することを認める特別の規定が法律にあれば、適法となりうる、ということになり、これが正解肢となります。

なお、肢1について、上記の通り、客観訴訟は、当事者間における具体的な権利・義務または法律関係の存否に関する紛争ではなく、事件性の要件を欠くので本来的には司法権の範囲には属しません。「法令の適用により終局的に解決することができないから」という部分が終局性の要件を聞いているので誤りとなります。

以上より、行政法の問題というよりは、憲法の問題です。行政法が憲法の応用科目という点からも憲法の理解が前提となっている問題といえるのです。

なお、本問では、宝塚市パチンコ条例事件の内容を具体的には、聞いていませんが、この具体的な内容が行政法の問題として著名であるので、以下の事案と結論を覚えておきましょう。

宝塚市は、パチンコ店の建設計画に対する地域住民の反対運動を契機に、昭和58年に、本件条例を制定しました。本件条例には、パチンコ店を建設する者は、市長の同意を要し同意なく建築を進めようとする業者に対しては、建設等の中止などの措置を命ずる制度(条例8条)が置かれていました。パチンコ業者Ⅹは、市長の同意なく建設工事の続行したため、宝塚市は、Ⅹに対して、条例8条に基づいて、建築工事の中止命令を発しましたが、本件条例には、業者が中止命令に応じないとき、刑事罰を含めてこれに対する制裁措置は何ら規定されていなかったのです。そこで、宝塚市は、Ⅹに対して、建築工事の続行禁止を求める仮処分を申し立て、申立てを認容する決定を得たのち、建築工事の続行禁止を求める民事訴訟を提起したというわけです。

最高裁は、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、「法律上の争訟」に当たらないとして、訴えを却下したのです。以下に判例を載せておきますので、参考にしてみてください。

『国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべきであるが、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許されるものと解される。

そして、行政代執行法は、行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、同法の定めるところによるものと規定して(1条)、同法が行政上の義務の履行に関する一般法であることを明らかにした上で、その具体的な方法としては、同法2条の規定による代執行のみを認めている。また、行政事件訴訟法その他の法律にも、一般に国又は地方公共団体が国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟を提起することを認める特別の規定は存在しない。したがって、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たらず、これを認める特別の規定もないから、不適法というべきである。

本件訴えは、地方公共団体である上告人が本件条例8条に基づく行政上の義務の履行を求めて提起したものであり、原審が確定したところによると、当該義務が上告人の財産的権利に由来するものであるという事情も認められないから、法律上の争訟に当たらず、不適法というほかはない。』




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