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憲法 人権 (H25-3) 


次の文章は、ある最高裁判所判決の意見の一節である。空欄[ア]~[ウ]に入る語句の組合せとして、正しいものはどれか。


  一般に、立法府が違憲な[ア]状態を続けているとき、その解消は第一次的に立法府の手に委ねられるべきであって、とりわけ本件におけるように、問題が、その性質上本来立法府の広範な裁量に委ねられるべき国籍取得の要件と手続に関するものであり、かつ、問題となる違憲が[イ]原則違反であるような場合には、司法権がその[ア]に介入し得る余地は極めて限られているということ自体は否定できない。しかし、立法府が既に一定の立法政策に立った判断を下しており、また、その判断が示している基本的な方向に沿って考えるならば、未だ具体的な立法がされていない部分においても合理的な選択の余地は極めて限られていると考えられる場合において、著しく不合理な差別を受けている者を個別的な訴訟の範囲内で救済するために、立法府が既に示している基本的判断に抵触しない範囲で、司法権が現行法の合理的[ウ]解釈により違憲状態の解消を目指すことは、全く許されないことではないと考える。

(最大判平成20年6月4日民集62巻6号1367頁以下における藤田宙靖意見)


   ア     イ      ウ

1 不作為   比例     限定

2 作為    比例     限定

3 不作為   相互主義    有権

4 作為    法の下の平等  拡張

5 不作為   法の下の平等  拡張



解答 5


 空欄は、3つしかないですが、内容は最高裁判所判決そのものではなく、判決に対する藤田宙靖の「意見」からの出題ですので知識がないと難しい問題でしょう。ただ、本問の文章にもヒントがあるので、そのヒントから何とか正解できるかもしれません。


 まず、「未だ具体的な立法がされていない部分」をヒントからアには、「不作為」が入るとわかるでしょう。また、「著しく不合理な差別を受けている者を個別的な訴訟の範囲内で救済するため」という部分をヒントにイには「法の下の平等」が入るとわかれば、正解は5となります。


 もっとも、本件意見を知らないと、ウにはなかなか拡張を入れることは難しいかもしれません。どうしても合憲限定解釈を思い出して、ウには限定をいれて正解を1にしてしまった方もいるでしょう。そういう意味で間違えても仕方ない問題だと思います。

 合憲限定解釈や合憲拡張解釈をとるのも、裁判所ができるだけ政治問題に干渉しないためです。

 政治問題は、国会や内閣で判断し、それ以外の当事者の権利義務に関する紛争等については、裁判所で判断するという役割分担をできるだけ守ろうということです。

 合憲限定解釈自体は、判例でも認められている手法ですが、合憲拡張解釈というのは藤田裁判官の意見の中で登場した手法であって、判例の解釈として確立されているわけではありません。


 なお、裁判所法11条は最高裁について「裁判書には、各裁判官の意見を表示しなければならない」と規定しています。最高裁判所裁判官の国民審査のための資料とするためです。

「意見」には、「多数意見(=判決内容)」、「少数意見」に分かれ、「少数意見」はさらに「補足意見」「意見」「反対意見」の3種類ほどに分けられます。

「補足意見」は「多数意見」に賛成する立場から、さらに付随的な事項や念のための説明などをつけ加えるもので、「多数意見」を補強しようというものです。試験でも出題されている伊藤正巳裁判官の補足意見がこれにあたります。

「意見」は、一般的には「多数意見」の結論に賛成するけれども、理由付けにおいて意見を異にする場合です。これが本問で出題された藤田宙靖裁判官の意見です。

そして「反対意見」は「多数意見」の結論にも反対するものです。

 本問では、最高裁判所判決そのものではなく、判決に対する藤田宙靖裁判官の「意見」からの出題ですが、重要なのはこの判決そのものです。

 末尾に「最大判平成20年6月4日」と記載されていますが、この「最大」からわかる通り、この判決は最高裁判所の大法廷でなされた法令違憲判決です。違憲判決は必ず大法廷でなされるのです。もし、「最小」となっていれば、小法廷でなされたものなので合憲判決が出たことがわかります。

 「法令違憲」は、争われた法令の規定そのものを違憲と判断する方法ですが、最高裁が法令違憲の判断を示したのは、この判決が8度目であり、数少ない法令違憲判決の一つとして重要です。

 今後は、この判決そのものが出題される可能性があるので、判決についても勉強しておいてください。

 この判決の詳細な解説については、有料講座の方に譲ります。



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