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行政法 行政事件訴訟法 (H27-16) 


事情判決に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。


1 事情判決は、処分取消しの請求を棄却する判決であるが、その判決理由において、処分が違法であることが宣言される。

2 事情判決においては、公共の利益に著しい影響を与えるため、処分の取消しは認められないものの、この判決によって、損害の賠償や防止の措置が命じられる。

3 事情判決に関する規定は、義務付け訴訟や差止訴訟にも明文で準用されており、これらの訴訟において、事情判決がなされた例がある。

4 事情判決に関する規定は、民衆訴訟に明文では準用されているものの、民衆訴訟の一種である公職選挙法上の選挙の無効訴訟においては準用が除外されているため、事情判決を出すことはできないが、これと同様の法理を使って判決がなされた例がある。

5 土地改良事業が完了し、社会通念上、原状回復が不可能となった場合、事業にかかる施行認可の取消訴訟は、訴えの利益を失って却下され、事情判決の余地はない。




解答 4  


本試験では、肢4の記述が不正確であったため、没問となった問題ですが、改題にすれば事情判決に関する基本的な問題ですので、是非とも正解したいところです。


テキストP303~308


肢1 誤  肢2  誤  肢5 誤

本来的には、取消訴訟において、処分又は裁決が違法ではあるため、請求に理由があるとして原告勝訴、つまり、請求認容判決がでるはずです。

しかし、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができるのです(31条)。

もっとも、これは例外的な判決なので、公益のために個人の権利を犠牲にすることは許されません。

ですから、この場合には、上記の通り当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならないのです。

よって、「判決の理由」としている肢1は誤りです。

また、この判決によって、損害の賠償や防止の措置が命じられるわけではなく、そのためには、別途国家賠償請求などを提起する必要がありますので、肢2も誤りです。

そして、例えば、肢5にあるように、ある人が土地改良事業における認可処分の取消を求めた場合に、その認可処分が違法であったとしても、その処分を取消すことで改良事業全体の修正が必要とされるような場合は、公の利益に著しい障害を生じることになります。

ですから、この場合は、既成事実を尊重し、事情判決がなさることもあるのです。したがって、肢5も誤りです。

肢3 誤  肢4 正

 事情判決は、取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合においてなされる取消判決特有の制度なので、その他の抗告訴訟では、事情判決の規定は準用していません。

『(取消訴訟に関する規定の準用)

第38条  

 …第24条、第33条及び第35条の規定は、取消訴訟以外の抗告訴訟について準用する。』

 よって、その他の抗告訴訟である義務付け訴訟や差止訴訟でも準用されていないため、肢3は誤りです。

 もっとも、民衆訴訟一般では事情判決が準用されています。

『行政事件訴訟法第43条  

民衆訴訟…で、処分又は裁決の取消しを求めるものについては、…取消訴訟に関する規定を準用する。』

ただし、公職選挙法による選挙の効力に関する訴訟には準用されていません。

『公職選挙法第219条  

この章…に規定する訴訟については、行政事件訴訟法第43条の規定にかかわらず、同法…第31条の規定は、準用せず…』

 肢4はこれを本当は言いたかったのでしょう。その上で、憲法で勉強した選挙訴訟における事情判決の法理を問うたのでしょう。

 なお、市販等の解説の中には、「民衆訴訟では事情判決が準用されている」という訂正をすれば肢4が正しいとする記述をしているものもあるようですが、正確にはこれも間違いです。もしそれで正しければ、そのまま事情判決を準用すればよいのです。そうではなく、公職選挙法219条で事情判決を準用していないので、事情判決そのものは出せない、しかし、同じ考え方を用いて解決したかったため、事情判決の法理として判決を出したということであり、本問で問いたかったものです。




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