WEB練習問題(リニューアル中) > 行政法過去問 > 行政法 総論 > 行政法 総論 (H23-8)

行政法 総論 (H23-8)


行政の実効性確保の手段についての次の記述のうち、妥当なものはどれか。


1 行政上の義務履行の確保に関しては、行政代執行法が一般法とされ、別に法律で定めるところを除いては、この法律の定めるところによる。

2 条例に基づく命令によって課された義務を相手方が履行しない場合には、代執行等の他の手段が存在しない場合に限り、地方公共団体は民事訴訟によりその履行を求めることができる、とするのが判例である。

3 食品衛生法に基づく保健所職員による立入検査に際して、受忍義務に反してこれを拒否する相手方に対しては、職員は、実力を行使して調査を実施することが認められる。

4 法令上の義務に違反した者について、その氏名や違反事実を公表することは、義務違反に対する制裁と解されるので、行政手続法上、聴聞の対象とされている。

5 義務違反に対する課徴金の賦課は、一種の制裁であるから、罰金などの刑罰と併科することは二重処罰の禁止に抵触し、許されない。



解答 1  


(肢1) 正

  行政執行法第1条そのものからの出題ですので、この肢だけで正解して欲しい問題です。肢1以外は少し細かいところから出題されています。

代執行とは、代替的な作為義務の強制手続きであり、後に費用を徴収する点で直接強制等よりも権利侵害の程度が弱いものであって、行政代執行法が一般法となっています。


行政執行法第1条

行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる。


(肢2) 誤

 本問は、「判例である」と記述されているからといって、判例の知識が必要というわけではありません。行政代執行法と憲法で勉強したことを思い出していただければ正解でいます。

民事事件など一般市民法秩序では、強制執行するためには、裁判所の関与が必要です。別の言い方をすると、当事者による自力救済の禁止が原則なのです。

私人間において、当事者自ら債権回収をすると過酷な取立てをするなどして社会秩序が混乱するからです。

これに対して、行政強制の場合は、裁判所の判断を経ていては、時間がかかり過ぎるため国民のために円滑迅速な行政サービスを実現することができません。

そのため自力救済の禁止の例外として、一方当事者である行政自らが実力行使をすることができるようにしてあるのです。

このように、強制手段をとるにあたって、自力救済をすることができ裁判所の関与を必要としない点が民法における債権回収の手段とは大きな相違点であるのです。

 そのため、肢1の通り、行政代執行法が一般法として定められており、その具体的な規定が第2条でなされています。

地方公共団体による義務履行の確保も行政上の義務履行の確保ですから原則として行政代執行法の手続きによることになります。

 また、代執行手続きによることもできないときであっても、民事訴訟を提起することはできません。

 憲法で勉強した法律上の争訟にあたらないからです。つまり、「法律上の争訟」となるためには当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られるのでしたね。

国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものでないので法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許されるのです。

そして、行政事件訴訟法その他の法律にも、一般に国又は地方公共団体が国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟を提起することを認める特別の規定は存在しません。判例(平成14年7月9日)も同趣旨です。

以上より、地方公共団体は民事訴訟によりその履行を求めることができるという点は、誤りとなります。

なお、行政代執行の場合は、代替的な作為義務であり、後に費用を徴収する点で直接強制よりも権利侵害の程度が弱いため、行政目的の実現のため条例でも制定できると定められています。

行政代執行法は一般法であり、その行使のための要件と手続きが厳格ですから、この法律の範囲内で条例が制定されるならば、許容されると考えられるのです。

 行政代執行法第2条の「法律」を条例に置き換えて読むと以下の通りになります。

第2条

条例に基き行政庁により命ぜられた行為について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。


(肢3) 誤

これはちょっと細かい問題ですね。行政調査の問題です。

行政行為や行政行為以外の行政活動(行政立法、行政契約、行政計画、行政指導など)を実現するためには、色々な角度から情報を収集する必要があります。

このように、行政機関が行政目的達成のために情報収集することを行政調査といいます。

行政調査には、強制調査と任意調査があります。

強制調査とは、相手方に義務を課し、または相手方の抵抗を排除しても行える調査をいいます。

相手方の意思に反して調査をするため、相手方への人権侵害が強く法律の根拠が必要となります。

行政調査には、あまり強制調査は多くはないですが、例えば、国税犯則取締法2条による臨検・捜索・差押えの犯則調査などがあります。

任意調査とは、相手方の協力を得て行われる調査をいいます。

相手方の協力を得て行われるため、相手方への人権侵害が強くなく法律の根拠が不要です。

但し、多くは法律に定められており、罰則の規定があります。

これを、間接強制を伴う調査といいます。

罰則の規定があることによって、間接的に協力を強制することになりますが、相手方の抵抗を排除しても行うわけではないので強制調査とは異なります。

では、本問の食品衛生法に基づく保健所職員による立入検査は、強制調査でしょうか、それとも任意調査でしょうか。

行政活動によって、不当な人権侵害がなされるのは、憲法で勉強したことからもわかるとおり、できるだけ避けるべきですね。そして、行政法は、個人の人権を保護するものです。

ですから、行政調査は、任意調査が原則なのです。

そのため、試験との関係では、上記の国税犯則取締法2条による臨検・捜索・差押えの犯則調査以外は、基本的に任意調査であると割り切ってください。

そうすると、食品衛生法に基づく保健所職員による立入検査も相手方の抵抗を排除しても行うわけではないので強制調査ではなく、任意調査なのです。

よって、保健所職員が、実力を行使して調査を実施することが認められるわけではないのです。


(肢4) 誤

違反事実の公表に関する問題です。

行政上の勧告や命令に従わない者がある場合に、その事実を公表して世論に訴え、社会的制裁を期待して行政への協力を促すものです。具体的には、以下の国土利用計画法26条にあります。

(公表)

第26条

都道府県知事は、第二十四条第一項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がその勧告に従わないときは、その旨及びその勧告の内容を公表することができる。


もっとも、これは行政手続法上の不利益処分にはあたりません。

まだ勉強していませんが、行政手続法上の不利益処分とは、特定の者を名宛人として、直接にこれに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいいます(2条4号)。

違反事実の公表自体は情報開示に過ぎないため直接義務を課し、又はその権利を制限する処分にあたらないからです。


(肢5) 誤

経済的負担(課徴金・加算税等)の問題ですね。

行政上の義務違反に対し、制裁として経済的不利益を課し、これにより義務の履行確保を促進しようとするものです。

例えば、加算税とは、納税義務者が国税について申告・納付義務などの法律上の義務を果たさない場合に、本来の税額に加算して課せられる税をいいます。

加算税という制裁を置くことによって納税義務の履行確保を促進しようとするものです。

なお、加算税(課徴金)は、行政上の要請を達成するための措置であり、脱税という反社会的な行為に対する制裁である罰金とは性質が異なるので、加算税(課徴金)と罰金を併科しても二重の危険の禁止(憲法39条)とならないとされています。




前の問題 : 行政法 総論 (H22-8)
次の問題 : 行政法 総論 (H20-26)

問題一覧 : 行政法 総論

WEB練習問題(リニューアル中) > 行政法過去問 > 行政法 総論 > 行政法 総論 (H23-8)