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行政法 国家賠償法 (H25-20)


国家賠償法に関する次のア~オの記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものの組合せはどれか。


ア 経済政策の決定の当否は裁判所の司法的判断には本質的に適しないから、経済政策ないし経済見通しの過誤を理由とする国家賠償法1条に基づく請求は、そもそも法律上の争訟に当たらず、不適法な訴えとして却下される。

イ 税務署長が行った所得税の更正が、所得金額を過大に認定したものであるとして取消訴訟で取り消されたとしても、当該税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしていた場合は、国家賠償法1条1項の適用上違法とはされない。

ウ 刑事事件において無罪の判決が確定した以上、当該公訴の提起・追行は国家賠償法1条の適用上も直ちに違法と評価されるが、国家賠償請求が認容されるためには、担当検察官に過失があったか否かが別途問題となる。

エ 自作農創設特別措置法に基づく買収計画が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ当該買収計画につき取消し又は無効確認の判決を得る必要はない。

オ 違法な課税処分によって本来払うべきでない税金を支払った場合において、過納金相当額を損害とする国家賠償請求訴訟を提起したとしても、かかる訴えは課税処分の公定力や不可争力を実質的に否定することになるので棄却される。


1 ア・ウ

2 ア・オ

3 イ・エ

4 イ・オ

5 ウ・エ


解答 3



判例からの出題ですが、過去問で出題されているものが正解肢となっています。

過去問をしっかり復習していれば、組合せ問題ということもあって、容易に正解できるでしょう。


ア  誤  

判例(最判昭和57年7月15日)

「上告人らは、本訴において、政府が経済政策を立案施行するにあたつては、物価の安定、完全雇用の維持、国際的収支の均衡及び適度な経済成長の維持の四つがその担当者において対応すべき政策目標をなすところ、内閣及び公正取引委員会は右基準特に物価の安定という政策目標の達成への対応を誤りインフレーシヨンを促進したものであつて、右はこれら機関の違法行為にあたり、被上告人はこれによる損害の賠償責任を免れない旨主張するが、右上告人らのいう目標を調和的に実現するために政府においてその時々における内外の情勢のもとで具体的にいかなる措置をとるべきかは、事の性質上専ら政府の裁量的な政策判断に委ねられている事柄とみるべきものであって、仮に政府においてその判断を誤り、ないしはその措置に適切を欠いたため右目標を達成することができず、又はこれに反する結果を招いたとしても、これについて政府の政治的責任が問われることがあるのは格別、法律上の義務違反ないし違法行為として国家賠償法上の損害賠償責任の問題を生ずるものとすることはできない。」として上告(請求)を棄却した。

つまり、法律上の国家賠償法上の違法行為に該当しないため、請求に理由がないとして棄却したのですから、違法かどうかの判断(本案審理)をしているので、訴え自体は適法であり、法律上の争訟に当たることが前提となっているのです。

イ  正 過去問(H24-20-3)

国家による損害賠償責任が認められるためには、公務員に故意・過失があることが前提要件です。よって、税務署長のした所得税の更正処分が、税務署長が所得金額を過大に認定したとして判決によって取り消された場合であっても、税務署長に故意・過失がなければ、国家賠償責任は負わないのです。

したがって、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしていた場合は、国家賠償法1条1項の適用上違法とはされないのです。

ウ  誤  

判例(最判昭和53年10月20日)

「刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに起訴前の逮捕・勾留、公訴の提起・追行、起訴後の勾留が違法となるということはない。けだし、逮捕・勾留はその時点において犯罪の嫌疑について相当な理由があり、かつ、必要性が認められるかぎりは適法であり、公訴の提起は、検察官が裁判所に対して犯罪の成否、刑罰権の存否につき審判を求める意思表示にほかならないのであるから、起訴時あるいは公訴追行時における検察官の心証は、その性質上、判決時における裁判官の心証と異なり、起訴時あるいは公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解するのが相当であるからである。」

なお、検察官が不起訴処分にした場合も、国家賠償法上の違法となるわけではありません。過去問(H21-20-5)を参照しておいてください。

エ  正  過去問(H20-19‐1)  

オ  誤  過去問(H22-19-3)


国家賠償請求訴訟は、民法の不法行為に基づく損害賠償請求と同様に給付訴訟ですから、民事訴訟手続きでなされます。

これに対して、処分の取消訴訟等では、訴訟の目的は、処分の取消あるいは無効確認そのものの形成訴訟であり、行政事件訴訟手続きでなされます。

また、仮に取消訴訟等の判決を得ておく必要があるとすれば、出訴期間が過ぎてしまった場合は、国家賠償請求もすることができなくなり、被害者の救済という趣旨が妥当しなくなります。このように、審理対象に共通する部分があっても、訴訟の目的が異なるので、別個独立の訴訟なのです。そのため、前提として取消訴訟等の判決を得ておく必要はなく、直接国家賠償請求訴訟をすることができるのです。

別個の訴訟のため、取消訴訟等の公定力や不可争力は、国家賠償請求訴訟には影響しないのです。

判例(最判平成22年6月3日)

「行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについては、あらかじめ当該行政処分について取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではないが、このことは、当該行政処分が金銭を納付させることを直接の目的としており、その違法を理由とする国家賠償請求を認容したとすれば、結果的に当該行政処分を取り消した場合と同様の経済的効果が得られるという場合であっても異ならず、不服申し立てや取消訴訟の期間が経過していても、なお国家賠償請求はできる。」




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